日本の"外科医"不足の背景について自分自身が思う事を軽くまとめます。
まずは前書き:
日本では、医師不足とくに小児科や産婦人科不足がマスコミなどで取り上げられています。医学部の入学者数を増やすなどの対策がなされていますが、その効果はこれからといった感じでしょうか。あまり大きく取り上げられていませんが、外科医も不足しています。私自身も現在アメリカに留学しており日本の医師不足に加担している?身ですので大きな事は言えませんが。
御存知かもしれませんが、いろいろな方が、いろいろな立場から、いろいろな視点でこの問題を解説しております。ネットで”外科医 不足”と検索すれば数えきれないほどのサイトがヒットします。
なので、あえて私がここで話す事でもないのですが、外科医師の立場から外科医不足について思った事を書きたいと思います。では、以下に書く事は個人的な意見がかなり含まれている点をご容赦ください。
僕の思う所:
何故外科医がいなくなるのでしょうか?
①希望者が減っている
②外科医を辞める医師が増えている
とどちらか(恐らく両方)です。
①希望者は減っているのは事実です。原因として考えられるのは
①-A 外科に魅力がない、一生やってゆく自信がない、など外科自身の問題
①-B 外科以外の科に魅力があるなど、外科以外の理由
①-A
外科医の魅力とは?、仕事の環境を改善、もっと女性の働きやすい環境を、など山ほど議論する余地がある部分です。今回のテーマの中だけではとてもカバーできませんので、機会のある毎にアップしていきたいと思います。
①-B
正確なデータはありませんが、研修医の就職で人気のある科と言われているのは、皮膚科、形成外科、眼科、麻酔科などです。理由はそれぞれなので一概には言えませんが、外科と比べて労働環境が恵まれており、比較的自分(家族)の時間を確保できるなどが挙げられています。ただ、どの科でもばらつきがあり、例えば形成外科のなかでも、クリニックでの美容形成科と総合病院で再建などの手術を行う形成外科とは仕事の内容も大きく異なります。
過酷な労働状況、更に最近では訴訟などのリスクを抱えながらも、一般病院に勤務している限り、基本的な給料は各科でほとんど同じです。
さて、さらにここからは完全に私個人の”意見”になりますが、こういった状況下で日本の外科医がいまだ働き続けるのは、”医師”としての使命感であると思います。
外科に限らず、”患者さんを助けたい”という強い気持ちが、今までの日本の医療(医療保険制度)を何とか支えていたのであると思います。これは医師に限らず看護士をふくめたすべての医療従事者に言える事です。残念ながらその精神も時代の流れ(その中にはアメリカの影響も少なからずある)に勝てずに徐々に崩れかけているのではないかと思います。
他にも、医学部時代の先輩の勧誘や外科医としてのステータス(今では皆無に等しいですが)などが外科を志す理由であったと推測されます。これらも今となっては若手医師が外科を志す動機とはなりえません。
一方アメリカの外科医は何に動機づけられて働き続けるのでしょうか?
まず、アメリカでも、皮膚科や眼科、放射線科などは労働環境の割に収入も高く、非常に人気がある科です。合理主義のアメリカで、なぜこれらの科に就職が集中しないかというと、前にも述べたようにACGME(Accreditation Council for Graduate Medical Education)という機関が、各科の定員を決めているために、各病院はそれ以上の研修医を採用できないのです。故に競争率は高くなるのです。
外科は?というと、それほどまでではないですが競争率は平均以上です。何故か? もちろん外科の魅力や外科医としてのステータスもありますし、こちらは専門科によって報酬も違うので、内科などに比べて高額の収入を得る事ができるという理由もあります。それでも過去の栄光?(かつては医学生の中でも最優秀の学生達が外科を志したらしい)を憂う論文が少なからず出ているのですから昔に比べると競争率は激減しているようです。主に40歳代以上の外科医は最近の外科研修医のレベルの低下をよく口にしています。自分からすると今の研修医も相当優秀なのですが。。。
なかでも心臓外科医は相当な報酬を得る事ができるのですが、にもかかわらず長時間労働、一人前になるまでに時間がかかる、内科的な治療が進歩してきているなどの理由から希望者は激減しており、フェロー(専門研修医)のポジションも半分くらいが埋まっていない状況なのです。それを考えると日本の心臓外科医は素晴らしいです。
外傷や救急疾患の外科を専門にする外科も人気がありません。不規則な労働環境、たとえ50歳をすぎても月に数回は当直をしなければいけないという状況を考えればアメリカ人にとって魅力がないのも当然です。
近年アメリカで人気が上がってきたのは、腹腔鏡手術を専門におこなう低侵襲外科や血管内治療の技術が向上し、これからも症例数(収入)の増加が見込まれる血管外科などです。小児外科や、腫瘍外科は伝統的に競争率の高い科です。
②外科医を辞める人も増えています。
注意すべきは、勤務医が離職し、個人で診療所を開業をした場合、引き続き外科専門医と名乗っていても実質手術などの外科的な診療を行わないことが多いのでこれも”辞める”と見なします。最近聞いた話では心臓外科専門医と名乗る医師の2割程度は、外科医としての技術を維持するだけの心臓手術をしていないようです。要するに名前だけの外科医も多いのです。
深刻なのは、いわゆる地域の一般病院で勤務する一般外科医の減少です。外科医は癌の手術だけをしているのではありません。一般病院の一般外科医は、”いぼ”をとって欲しい、”脱腸”を直して欲しい、胆石の手術をして欲しい、足の静脈瘤をどうにかしてくれ、といった患者さんから、腹痛、交通事故、癌の手術までさまざまな疾患に対応しなくてはなりません。一部の専門施設のように、胃の癌はこの先生へ、大腸の癌はこの先生へというのではありません。
知人の話を聞くと、仕事の環境はやはり厳しいようです。24時間常にオンコールの状態で、30分以内に病院へ駆けつけられる範囲しか出かけられないとか、離職者がでるとそれを補うためにさらに仕事量が増えるとか、まさに悪循環です。
”医者なんだから、看護士なんだから、それだけ身を削ってやるのが当然”、と思われる方もいるかもしれません。実際、働いている医療従事者がそう思って頑張っているのが日本です。
それがアメリカに来ると”医者だって一人の人間、生活の質も確保されて当然”、となるわけです。ひとりひとりの個人努力が期待できない(期待する事を考えていない)アメリカはその分人数やシステムで補うのです。



















