ご存知のように、最近では、多くの手術が”侵襲の少ない”方法で行われることが多くなっています。少し強引ですが、簡単に言えば”傷が小さい、ない”手術法というものがどんどん開発されています。具体的にはカメラやロボットを使ったり、血管や消化管の中から治療します。
虫垂炎やヘルニアの手術から心臓の手術まで、多くの手術法がこの低侵襲手術で行うことが可能になってきています。見た目の傷が小さく、目立たないことはもちろんのこと、手術後の回復も早くなるわけです。
患者さんも”大きな傷と小さな傷、回復期間の違い”などを提示されたら、ほとんどの人が低侵襲手術を選ぶでしょう。しかし、実際のところは、治療効果や合併症などまだまだ検討しなければいけないことも多いようです。
その中でも胆嚢をとる手術というのは、早くから低侵襲である腹腔鏡手術が主流になり、従来のおなかを大きく開ける開腹胆嚢摘出術は非常にまれな手術になっています。そのため、以前であれば、若手外科研修医がおこなうことが多かったのですが、最近ではシニアレジデントでもその経験が少なく、5年間の一般外科終了時点でも、自信をもっておこなうことができるものばかりではないと予想されます。
腹腔鏡手術に適さない、困難である手術が開腹手術の適応となることが普通であり、いざという時の”保険”的な存在であるはずなのですが、最近ではあまりに開腹症例が少ないために、”開腹になったらよけい大変なことになる、なんとか避けなければ”といったような風潮が外科レジデントや若手外科医の中にも見られるような気がします。
自分の日本での外科トレーニングは、開腹手術が中心であったためにそちらのほうが慣れており、現在のアメリカに起こっている、この”低侵襲手術の方が開腹手術より自信を持って行える”という状況に対して強い違和感を感じていました。
総胆管という胆嚢とつながった胆汁の通り道に石がつまって炎症や黄疸を起こす総胆管結石という病気があります。昔は手術で石を取っていましたが、今ではほぼ100%近い症例で内視鏡、もしくは腹腔鏡での摘出が可能です。そのため、外科レジデントでもおなかを開けて総胆管結石を摘出する総胆管切石術(choledocholithotomy)を5年間の研修で行うことは非常にまれであり、当然自信を持って行えるものは皆無に等しいと思われます。自分は幸運にも日本にいたときには、数は多くないにしても研修医の前立ちでこの手技をおこなっていたので特別な手技ではないのですが。
そんな中、内科から総胆管結石の症例で内視鏡的に摘出が不可能な症例が外科にコンサルトされてきました。その時の外科のアテンディングたちのあまりの興奮ぶりに少し引いてしまいました。それが30代の若手外科医ならまだしも、40代後半のベテラン外科医まで”教科書引っ張りだしてこないといけないなー”といった冗談なのか本気なのか分からない発言をしていました。
アメリカに来て驚いたのは、こういった一般外科手術のパラダイムチェンジの影響がすでに40代以上の中堅外科医にまで広がっているということです。
ちなみにアメリカの一般外科手術書を見ると、上記の総胆管切石術の副題として、"Surgical Legacy Technique(過去の遺産的手術)"と添えられています。
以前からこういったアメリカの外科研修の現状を数字化できればと、外科レジデントのプログラムディレクターにもアイディアを提出してたのですが、どうやら皆考えることは同じのようで先日Yale大学のグループから全米の外科レジデントプログラム宛にアンケートのお願いが来ていました。
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Big Surgeon makes Big Incision
(偉大な外科医ほど大きな傷で手術をする)
今のアメリカでは完全に死語となっています。
ただ、小さな傷で手術をおこなうことに慣れてしまっているため、本当に”大きな傷”を開けないといけない状況でも傷を大きくことを恐れ、低侵襲どころか、逆に患者の負担を重くしてしまう可能性もあることを頭に入れて置くべきでしょう。
自分がまだ日本での研修医を終えてすぐのころ、腹腔鏡手術で悪戦苦闘している時に、ベテラン外科医が途中、手術に入ってきて、”開腹しないとダメだろ”と、傷を大きくし、手術があっさり終了したのを今でも覚えています。
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